http://www.asahi.com/picasso/topics/TKY200811220072.html
(2008年11月22日)
青の時代、キュービスム、シュールレアリスム……。次々と画風が変化したパブロ・ピカソの作品は奥が深く、さまざまな見方がある。東京・六本木の二つの美術館で開催中の「巨匠ピカソ」展では計230点が展示され、その魅力を十分に味わえる。ピカソ芸術に強い関心を寄せるアートディレクターの佐藤可士和さんに国立新美術館の「巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡」展を鑑賞してもらい、天才作家の名品の楽しみ方を聞いた。(山内健)
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美大入試の準備をしていたころ、実際にピカソのデッサンを模写して「腰が抜けるほどのうまさ」に衝撃を受けたという佐藤さん。ピカソ作品からいつもエネルギーを与えられてきたという。
●伝わる無邪気さ
今回の展覧会では、作品を鑑賞するだけでなく、クリエーターとして作家の思考をたどるのが面白いと話す。まず、ロシア・バレエ団のバレリーナで、最初の妻となったオルガをモデルにした「肘掛(ひじか)け椅子(いす)に座るオルガの肖像」を前に、「ピカソの無邪気さが伝わってきます」。きれいに描いてと言われ、その通りに描いた作品だ。
背景が手つかずのままなのは「きれいに描くという目的は達した。次!って、途中でやめちゃったのでは」と推測する。せっかちで才気走って、脳の中のイメージに物理的な制作が追いつかなかったのだろうか。
コラージュは、実際の紙や印刷物を画面に張り付ける手法。ピカソがキュービスムを追求する中で発明した。「バイオリンと楽譜」はその初期の代表作だ。
「今の美術では当たり前だけど、これを最初にやったことはとてつもなく大きい。造形としても美しいところがさらにすごい」と80年前の変革に驚く。
「ギターとバスの瓶」でも、木の断片に新聞を張ったり、種類の違う黒を使い分けたりした。「美しい構成を瞬間的に計算しているようです」。これこそ、絵の才能の上に、トレーニングを積んだプロの仕事。同じようにうまく決まる瞬間が自分にもあるという。
●若い作家に共鳴
シュールレアリスムの絵画と立体作品が並ぶ前では、ピカソの心の自由さに話が及んだ。
エルンストやマグリットらのシュールレアリストは、1881年生まれのピカソより、10~20歳ぐらい若い世代だ。「女の頭部」を指さしながら、「若い作家の仕事が面白ければ、素直に共鳴して自分もやってみる。これも、その一つですね」。
普通は、それまでの評判を落とすのをおそれ、簡単に作風を変えられるものではない。「結果としてちゃんと新しい世界をつくっている。表現者としてのすごさ、かっこよさ。ぼくはピカソのそういうところから勇気をもらうんです」
最後に、ピカソに会ってみたかったかどうか聞いてみた。「友達にはならないほうがいいなあ。人間関係とかのトラブルに巻き込まれたら大変そう」と笑った。
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さとう・かしわ 1965年、東京生まれ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科卒業。博報堂を経て独立し、「サムライ」を設立。SMAPのアルバムやNTTドコモの携帯電話のデザインなどで知られ、国立新美術館のロゴマークも担当した。
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