2009/08/15

「最新心理療法 の臨床例」の監訳者より

田中 究 さんより


ここで心理療法を受けたクライアントの様々な困難からの回復には大いに喜びを共にしたいのだけれど、こうした治療の前提には全き善なる状態が仮定されているように、私は思うのである。


全き善なる状態、「バラの花園」(ハナ・グリーン)は存在しない。すべての人は心的外傷を負っている。心的外傷という言葉が大げさであれば、セルフ(自己)の傷つきと言い換えよう。

出産外傷から始まって、親からの躾の中に自己愛の傷つきは含まれる。友人との競争や葛藤の中にも、他者との別れや悲嘆の中にも。

しかし、これらは人が人として生きていくためのいわばエッセンスあるいはスパイスなのではないかと思うのである。

心理療法家がクライアントを援助できるとしたら、こうした傷つきを何らかの技法によって癒すことではなく、クライアントが彼らの中にあるリソースを用いて自らを癒えることをエンパワメントしていくことではないかと考える。

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